
【結論】GraphRAGとAgentic検索(agentic retrieval)の使い分けとは、質問の性質で決めることです。文書全体の関係性をたどる必要がある問いはGraphRAG、複数条件や言い換えを含む調査的な問いはAgentic検索が向きます。
- GraphRAGは文書からエンティティと関係を抽出し、階層的なコミュニティ構造と要約をあらかじめ作っておく方式。前処理は重いが、組織図や部品構成のような「関係をたどる」問いに強い
- Agentic検索は推論時にクエリを分解・並列検索する方式。前処理は軽いが、明示的なグラフ構造は持たない
- Microsoft公式のGraphRAGリポジトリは研究プロジェクトであり「保守モード」。本番導入の前提が通常のMicrosoft製品と異なる
この記事では検索アーキテクチャを選ぶ開発責任者・データ基盤担当向けに、2026年9月時点の公開情報に基づいて解説します。
GraphRAGとAgentic検索とは
GraphRAGとは、Microsoft Researchが2024年に公開した手法で、生のテキストから知識グラフを抽出し、それをLeiden法で階層的なコミュニティにクラスタリングし、各コミュニティの要約をボトムアップで生成しておくアプローチです。単純なベクトル検索(プレーンテキストの断片を似ている順に取る方式)とは違い、事前に「データセット全体の構造」を作っておく点が特徴です(出典:GraphRAG公式ドキュメント)。
一方、Agentic検索(agentic retrieval)とは、検索を推論時のタスクとして扱う方式です。ユーザーの問いを受け取ったら、LLMがそれを複数のサブクエリに分解し、並列に検索を実行し、結果をセマンティック再ランクしてから統合応答を返します。Azure AI Searchのagentic retrievalがこの代表例で、明示的なグラフ構造を作らずに複雑な問いへ対応します(出典:Agentic Retrieval Overview – Azure AI Search)。Azure AI Search側の詳細な機能・API区分はAzure AI Searchのagentic retrievalで解説しています。
GraphRAGの4つの検索モード
GraphRAGは、作成した知識グラフとコミュニティ要約を使い、問いの種類に応じて4つの検索モードを切り替えます。
| モード | 仕組み | 向く問い |
|---|---|---|
| Global Search | コミュニティ要約をmap-reduce的に使い、部分応答を集約して最終回答を作る | 「このデータセットの主要テーマは何か」のような、全体を見渡す問い |
| Local Search | 特定のエンティティから隣接ノードへ「ファンアウト」し、関連概念をたどる | ある人物・組織・製品を起点にした具体的な事実確認 |
| DRIFT Search | Local Searchにコミュニティ情報を足し、フォローアップの問いを生成しながら深掘りする | 広さと深さの両方が必要な、複数条件の調査 |
| Basic Search | グラフを使わない標準的なtop-kベクトル検索。比較のベースライン | 単純な類似検索で足りる問い |
Global SearchはMicrosoft Researchの原論文が示した中核機能で、キーワードのない「最近2週間の更新を教えて」のような問いに強い、と説明されています(出典:GraphRAG: Improving global search via dynamic community selection – Microsoft Research)。参照するコミュニティ階層のレベルを下げるほど回答は詳細になりますが、処理する要約の量が増えてコストと時間も増えます。

GraphRAGとAgentic検索の比較
| 観点 | GraphRAG | Agentic検索(agentic retrieval) |
|---|---|---|
| 事前処理 | 知識グラフ抽出・コミュニティ検出・要約生成が必要。データ量に応じて重い | 索引作成が中心。相対的に軽い |
| 関係の扱い | エンティティ間の関係を明示的なエッジとして保持し、たどる | 関係は保持しない。クエリの言い換えと再検索で補う |
| 更新運用 | 文書が変わるたびグラフとコミュニティの再計算が要る | 索引への追加・更新は比較的単純 |
| 向く問い | 組織図・部品構成・因果チェーンなど「誰が何とつながるか」 | 調査・言い換え・複数条件の質問 |
| Microsoftでの位置づけ | 研究プロジェクト(保守モード)。公式非サポート | Azure AI Searchの製品機能(Foundry IQ経由でマネージド利用も可) |
選び方の判断軸
両方をいきなり足す前に、自社の質問ログで「関係をたどる問い」が何割あるかを確認するのが実務的です。
| 状況 | 推奨の出発点 |
|---|---|
| 文書整備がまだ弱い | グラフ構築より先に文書のクリーンアップと索引化を優先する |
| FAQと調査が混在している | 単一クエリまたは軽いAgentic検索から始め、足りない領域だけ拡張する |
| 「誰が」「何と」「なぜ」がよく聞かれる | 小規模なGraphRAGのPoCで、関係質問への回答品質を測る |
| Microsoft環境が中心(Azure/Foundry) | まずAzure AI SearchのAgentic検索やFoundry IQで評価し、足りなければGraphRAGを検討する |
導入前に確認すること
GraphRAGを検討する際は、次の3点を必ず確認してください。
- 公式リポジトリの位置づけ: microsoft/graphragのREADMEには「これは研究プロジェクトであり、大部分は保守モードにある。新機能の実装や新規プルリクエストの受け入れは行わない」という警告が明記されています。バグ修正と依存パッケージの更新は継続されますが、コードは「デモンストレーション」であり、公式にサポートされたMicrosoft製品ではありません(出典:microsoft/graphrag GitHub README)。本番導入時は、この前提を経営層・セキュリティ部門と共有してください。
- 前処理コスト: エンティティ抽出とコミュニティ要約の生成には、文書量に比例してLLM呼び出しが発生します。大規模コーパスでは索引作成だけで相当なトークン費用がかかるため、小規模なサブセットで先にコストを見積もってください。
- Azure AI Searchのagentic retrievalとの比較: 同じ「複雑な問いに答える」目的でも、Azure AI Searchのagentic retrievalは製品としてGA(一般提供)とpreviewの機能区分が公式に整理されています。まずはこちらで評価し、グラフが本当に必要な領域だけGraphRAGを個別導入する判断も現実的です。Foundry上でのマネージド利用はFoundry IQとはで解説しています。
一般的なRAG構築の進め方はRAG構築の進め方(5ステップ)、実装支援はAIシステム/AIエージェント開発支援を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. GraphRAGとは何ですか?
文書から知識グラフを抽出し、階層的なコミュニティ要約を事前に作っておくRAGの手法です。Microsoft Researchが2024年に公開しました。
Q2. Agentic検索だけで足りませんか?
多くの調査的な問いはAgentic検索(クエリ分解・並列検索)で足ります。組織図や部品構成のように「関係を明示的にたどる」必要がある問いでは、GraphRAGが有利になる場面があります。
Q3. GraphRAGとAgentic検索は両方必要ですか?
最初から両方を入れる必要はありません。自社の質問ログで「関係をたどる問い」の割合を確認し、少なければAgentic検索から始めるのが実務的です。
Q4. GraphRAGはMicrosoftの公式製品ですか?
いいえ。microsoft/graphragのGitHubリポジトリは研究プロジェクトで、README上に「保守モード」「公式にサポートされたMicrosoft製品ではない」という警告があります。Azureの導入アクセラレータも同様に非公式サポートです。
Q5. コストの違いは何ですか?
GraphRAGは知識グラフとコミュニティ要約を作る前処理コストが主です。Agentic検索は前処理が軽い一方、推論時の複数回検索とクエリ計画用LLMの利用でコストが発生します。
Q6. GraphRAGの検索モードにはどんな種類がありますか?
Global Search(全体を見渡す問い)、Local Search(特定エンティティの深掘り)、DRIFT Search(両者の組み合わせ)、Basic Search(通常のベクトル検索)の4種類です。
Q7. Azure AI Searchのagentic retrievalとGraphRAGは同じものですか?
異なります。Azure AI Searchのagentic retrievalは、Microsoftの製品機能としてGA/previewの区分が公式に整理されています。GraphRAGは別の研究プロジェクトで、実装の仕組みも異なります。
Q8. 最初の一歩として何をすればよいですか?
直近の問い合わせログやFAQを確認し、「誰が・何と・なぜ」を問う関係質問がどれくらいあるかを数えることです。少なければAgentic検索の評価から始めてください。
Q9. 研究論文の性能改善はそのまま自社に当てはまりますか?
当てはまるとは言えません。ベンチマークの条件が自社データと異なるため、自社の質問セットで再測定することが必要です。
Q10. x3dに相談できますか?
できます。武石幸之助は2017年から対面で1,800社超・受講者5,000名超にAI導入支援を実施しています(認定講師分・オンラインは含まない)。検索アーキテクチャの選定から評価設計まで支援します。
参考文献・出典
- Microsoft「GraphRAG」公式ドキュメント
- GitHub「microsoft/graphrag」(保守モードの警告を含むREADME)
- Microsoft Research Blog「GraphRAG: Improving global search via dynamic community selection」
- Microsoft Learn「Agentic Retrieval Overview – Azure AI Search」
本記事は2026年9月時点の公開情報に基づいています。GraphRAGは研究プロジェクトとして更新方針が変わる可能性があり、最新は各公式ドキュメントをご確認ください。
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